第3回 芝尾昭治の冷食見聞録〈未来対談篇×生協〉
「芝尾昭治の冷食見聞録」アーカイブス第3回目は2020年12月7日付・2021年1月4日付、冷凍食品新聞掲載の対談企画をお送りする。ゲストに日本生活協同組合連合会の長門哲也商品本部冷凍食品部部長を迎え、同社の冷凍食品の販売状況および開発について聞いた。
長門氏
芝尾 生協は非常に興味のあるチャネルであり、今回、対談ができるのを楽しみにしていた。私もイオン出向時代、宅配ビジネスを研究したが答えが出せなかったという経験がある。その際生協は非常に歴史があり、独自のノウハウを持っていることを実感した。本日の対談においては、現状の実績を踏まえつつ貴連合会における冷凍食品の位置づけ、また今後の開発方針など詳しく伺いたい。
まず、はじめに直近までの冷凍食品の販売状況について確認させてほしい。コロナ下において生協の冷凍食品は非常に伸びていると聞いているが。
長門 2020年度は4月-10月累計で前年比118%となっている。3月の一斉休校後、急激に宅配が伸長し、3月、4月、5月は120%台で伸長した。6月以降はかなり落ち着くだろうと見てはいたが、6月以降も常に高止まりの状態だ。「GoTo」も始まり外出機会も増えたことで国内需要も落ちるだろうと思っていたが、現時点でも115%前後で推移している。依然として好調だ。
芝尾 一般のスーパーマーケット(以下SM)を超える伸びをしていると感じる。緊急事態宣言後、急激な需要増の中で、各流通では商品の欠品やアイテム集約が見られたが、供給体制という面ではどのような影響があったのか。
長門 コロナ以降、非常にたくさんのご利用いただき、我々が製造委託しているメーカーのキャパオーバーは当然あった。また、それ以上に、商品を集品してトラックに載せて組合員にお届けするといった物流のキャパオーバーもあった。この2つのキャパオーバーによってかなり多くの組合員様にご迷惑をおかけした。7月以降は正常化しており、現時点ではそういうことはほとんどない。
芝尾 ものが増えれば当然宅配なので配送車や人員が不足してくる。コロナ前より配送車や人員の増加はあったのか。
長門 商品をピッキングしてシッパーに詰めてトラックに積んで運ぶという体制に変更はなく、急激な人員の増加はなかった。一方で冷凍食品に限らず、一人当たりの購入金額が増えたので当然、一人当たりの購入点数も増えた。ここでキャパオーバーが発生した。
芝尾 コロナ下におけるカテゴリー動向についてもお伺いしたい。
長門 まず伸長したカテゴリーはやはり主食、米飯や麺、パスタや玉うどんが非常に伸長した。また、それ以上に伸長したのが冷凍野菜だ。冷凍野菜はコロナ影響もあるが、生鮮の高騰も重なり一番の伸びを示した。また、お子様が外に出ずに家の中にいるというシーンも例年以上にあったことでスナック類やアイスも非常に伸びた。用途別では夕食惣菜が伸びた。レンジ対応商品だけでなく油調やフライパンで焼くといった今までダウントレンドだった商品も非常に伸長したというのが今回の特長だ。
芝尾 商品の動きはやはり全国的に同じようだ。冷凍野菜は確かにSMでも伸びた。どのカテゴリーも順調に伸びていると思うが、弁当惣菜についても聞かせてほしい。他社は100%に届かない状況にある。御社ではどうか。
長門 弁当は特に春先は一斉休校の影響もあり、我々も3~5月まではかなり苦戦したが6月以降は前年並みで推移している。
芝尾 他社SMでは直近で聞く範囲では、弁当だけは本当に何をやっても100%に達しないという。売場も拡大ではなく縮小の方向にあるので確かにそういう結果になるのだろう。
ただ、生協は宅配も持っていることで、また違ったお客様の需要をしっかり掴んでいるのだろうということを改めて感じている。
開発という点では弁当アイテムには現状積極的に取組んでいるのか。
長門 2019年度までは増やす方針はなく、現状維持という状況だったが、我々もお弁当の売場が徐々に狭まっておりアイテム過多になっている。2020年度以降は若干絞り込む方向で進めている。
弁当品に関しては、一般のSMでは子供やお父さん向けがメインとなるが、生協は組合員の平均年齢が高く、直近であれば平均年齢は50代後半、組合員全体の半分が60代以上だ。お弁当商品は高齢者の方がちょっとした夜、または昼のおかずに使っているシーンが広くあると推測している。そういったところが実績にも繋がっている。
芝尾 確かに消費者は弁当向けと用途を限定するのではなく、自由な発想で商品を使用している。開発の方向性としてもそういった点は意識しているのか。
長門 デザインについても、現在はお弁当箱があってその中におかずが入っているようなパッケージで展開しているが、NBの商品を見ていると皿に乗っていたり、あまりお弁当を想起させないようなものに代わっている。我々もそこは勉強させていただこうと考えている。
●冷食の宅配比率は85%
売筋No.1は北海道産の「そのまま枝豆」
芝尾 さて、ここで1点確認させていただきたい。現在、店舗とコープ宅配の売上比率はどのようになっているのか。
長門 コープ商品全体の構成比は店舗が2割~3割、宅配が7割~8割。なかでも冷凍食品は宅配の構成比が非常に高く、現在では85%が宅配、残り15%ほどが店舗となっている。
芝尾 宅配の構成比が非常に高い。80~85%は驚きだ。会員も増えていると聞いているので、間違いなくベースが上がっていく状況だろう。
長門 我々も宅配の実績分析はしているが、新規加入の効果よりも一人当たりの購入金額が今まで以上に増えていることが伸長の大きな要因となっている。店舗は他のSM、コンビニ同様だが客数は減っている。ただ、客数は前年を下回っているが、一人当たりの購入金額で上回ってなんとか前年を超えている状況だ。
芝尾 これだけ宅配比率が大きければ、当然、一般のSMとの売れ筋の違いはあると思うが、現状の冷凍食品売上トップ5を教えてほしい。
長門 一般的にはギョーザや炒飯が売れ筋になると思うが、生協の売れ筋は世の中の家庭用商品とは全く違い、我々の1位は「CO・OP北海道のそのまま枝豆」だ。2位は「同(長崎風)ちゃんぽん」、3位が「同たこ焼き」、4位が「同ふっくら卵のオムライス」、5位が「同焼おにぎり」の順となっている。
芝尾 ギョーザやから揚げは一般のSMでは逆に売れ筋に入るのだが。生協のお客様は、手作りで作られているのか、それとも生協以外で買い求めているのか。どうお考えか。
長門 おそらく、それらのカテゴリーについては組合員は、主力のNBを購入されていると考えている。もちろんNBのあるカテゴリーには我々のPBも当然、配置はするが、必ずしもそこで勝負をするというわけではない。生協には生協独自の品揃えや品質がある。品揃えとしては必要だが力の入れ方はバランスを取りながら考えている。
芝尾 購入層の違いももちろんある。
長門 繰り返すが50代後半が平均組合員の年齢で、組合員の半分が60台以上。当然胃袋もどんどん小さくなっていくので我々としては新しい組合員、20代~30代の組合員が長くこの先商品を利用していただける戦略が必要になる。そのため冷凍食品では20~30代の母親を対象とした乳幼児向け商品にも力を入れている。
《2020年12月7日付 冷凍食品新聞より》
●冷凍食品部は四つのグループで
芝尾 商品開発に話を移したい。まず生協の開発体制についてだが、人員や役割分担などについて教えてほしい。
長門 冷凍食品部は四つのグループがありカテゴリーに分けて仕事をしている。四つのグループとはから揚げやハンバーグ、焼き鳥、かつなど畜産のグループ、麺類米飯など主食系を中心としたグループ、食卓惣菜を中心としたグループ、冷凍野菜・アイスを担当しているグループだ。
●一番台所に近い商品開発
芝尾 続いて開発コンセプトとカテゴリーごとの展開アイテム数を教えてほしい。
長門 先程も触れたが全体のSKUは850。なお、コープ商品は①安全と安心を大切に、より良い品質を追求します②くらしの声を聴き、価値あるものをつくります③想いをつなぎ、共感を広げます④食卓に、笑顔と健康を届けます⑤地域と社会に貢献します―の五つの約束を大切に開発している。
芝尾 今、挙げていただいた五つの約束、特に「くらしの声を聴き、価値あるものをつくります」とあるように、確かに御社は一番台所に近い所の情報を取って冷凍食品を作られてきたことが明確に感じられる。一般のスーパーではPOSデータで販売動向を確認するが、お客様の購入データなどそういうものは収集して分析、開発に生かされているのか。
長門 我々はもちろん、組合員の購買データは分析する。それに組合員さんの実際の声、食べていただいてどういう評価をされているかということを必ず全ての開発工程の中で行っている。
芝尾 加盟生協との連携、開発における情報収集の仕組みはどうなっているか。意見交換の場はあるのか。
長門 そこはかなり一体的にやっており、それぞれのエリアやカテゴリー、目的別に日々会議がある。以前は、コープ商品を加盟生協がそれぞれ開発していた時代はあるが、現在、開発業務は基本的に集約されている。我々も開発に当たっては全国の加盟生協の情報を聞いて、具体的に今どういう商品が欠落しているのか、どういう組合員のニーズがあるのか、どういう商品が必要なのかといった分析は行っている。非常に良い関係でできている。
芝尾 開発における苦労ももちろんあると思うが。
長門 開発における大原則は組合員の声にどう耳を傾け、それを具現化していくかということ。ただ、必ずしも組合員がほしいといったものがそのまま売れるわけではない。量産体制が組めるかといったことも重要であり、組合員の声は大切にはするが、単純にそれを、そのままそっくり商品につなげるのではなく、組合員の声の裏側にあるもの、なぜそういった声があるのかという背景を探ることが非常に難しい。
二つ目はお取引先様との関係がある。我々はひとつの自前の工場もない。全て冷食メーカーの皆様に製造委託し、作ってもらっている。そういった取引先、製造小売、産地との関係づくりを大切にしている。
三つ目は近年、冷凍食品業界自体がどんどん市場が拡大しておりどこの製造工場もキャパの問題に直面している。キャパの問題に直面すると効率を求める動きにメーカーはなっていく。当然効率を求めれば何かをカットしていく。今まで作れたものが作れなくなっていくことがこれからは、もっともっとでてくると考えている。その時にカットされないように、いつまでもコープ商品を作っていただける、選ばれる関係でありたい。
芝尾 最後のひとつは肝心なことではあるが、なかなか簡単にはできないこと。生協さんにメーカーから選ばれる流通であるべきというお考えがしっかりあるということは、非常に勉強になった。
特に昨今の状況の中で、ある企業がある商品を作りたいといっても確かにキャパがなく、できないという声を最近多く聞いている。そういう意味では日頃からの関係をしっかりと作っていくことが重要であり、御社のそういった姿勢は、外から見えない部分だが非常に重要だと感じた。
芝尾 最後に今後の開発の方向性、重視するカテゴリーについて聞きたい。
長門 生協の冷凍食品はお弁当で拡大してきたマーケットではなく、食卓惣菜を中心に品揃えして成長してきた。それが近年、SMだけでなくコンビニもいろんな商材を開発するようになって、かなり競争が激しくなってきた。そこは負けないように引き続き食卓惣菜については強化していきたい。
二つ目は冷凍野菜の中でも国産冷凍野菜はかなり古い歴史があり、ある意味、生協が市場を創ってきたという自負もある。近年、各社で国産の冷凍野菜へのチャレンジが増えてきたが、いまひとつ伸びていない。この国産の冷凍野菜については強化をしていきたい。
芝尾 本日は今までなかなか知ることのなかった話が詳細に聞けて非常に充実した対談となったと思う。驚いたのは生協に冷凍食品部があるということ。部があるということは改めて生協における冷凍食品の存在の大きさを感じさせる。私も20数年冷凍食品に携わってきたが、一昔前の会社の中での冷凍食品の位置づけは非常に寂しいものでそれを格上げするのに大変時間を費やしたが、生協にしっかりと冷食部という組織があり、その体制、仕事の中身、これを今日は勉強した次第だ。冷凍食品独自の市場をしっかりとつかんでいるということを改めて感じた。
《2021年1月4日付 冷凍食品新聞より》